登録修正の申請前に、ぱっと思いついたので続き物で文章を投下してみます・・・!
キャラさんもお借りする予定。でも投稿はしないかも・・・
第4夜 『白輝の都』 塩の町にて
*** 1 ***
「よう、お前さん、イイ得物持ってんじゃねぇか」
突然、目の前に立ちふさがったゴロツキ然とした男たちの姿にトアーラは足を止めた。
キャラバンで見習いとして働いた分の給金がある程度溜まったので、町に買出しに出かけたその帰り道のことだった。
傍目に変化が見られないほどわずかに眉根を寄せて、フードの内側から相手を見遣る。立ち塞がる三人の男はどれも人相が悪い。
エモノとは、腰帯に挿した短刀のことだろう。
短刀は両腕に抱える荷物に隠れてよく見えていないはずなのに、 “イイ得物” ということはずいぶん前から目を付けられていたということだ。
腕の中の荷を堅く抱きしめる。
白輝の都では治安の悪さについてよくよく注意するよう聞かされていたのに、内心舌打ちしたい気分だ。
トアーラの持つ短刀は一見古ぼけた古品にしか見えないが、実際は男たちの言う通り普通より上質のものである。
半月型の刀身は並の得物と同じだが、そこに据え付けられた鮮やかな蒼い石の装飾が価値を倍にするだろう。
そこに目をつけるということは、この男たちの中に古美術に詳しい者がいるのか。もしくは、裏で手を引く売人が偶然彼女の持つ短刀に気付いて、ゴロツキをけしかけてきたとも考えられる。
「こりゃあ、お嬢ちゃんだったかい。それ、俺たちによぉく見せてくんねぇかなぁ?」
猫なで声で言い寄る男はトアーラのフードの下の顔を覗き込んで、ようやく相手が女の子供だと気付いたようだ。にやにやと笑いを深める。
「なぁに、すぐに返してやるからさぁ。そら、その荷物持っててやるからよぉ」
そんなことを言って、渡したが最後この手に戻ってくることはたぶん一生ないだろう。
絶対、渡してなるものか。・・・しかし今、彼女の手に身を守るための武器はない。
いつも肌身離さず持ち歩いているこの短刀は、戦うために身につけているのではない。
これは大切な人の形見で、トアーラは憧れの世界を巡ることのできなかったその人の代わりに、一緒に旅をしているつもりだった。
―― これに、血を吸わせるわけにはいかない。
相手は 三人。トアーラは黙したまま俯いた。
男たちにはその様が、怯え、躊躇っているように見える。
トアーラはゴロツキの言うとおり、荷物を持ったままでは短刀を渡せないからと、手にしていた荷を正面に居た男に差し出す。
にやにや笑いながら男が荷物を受け取った次の瞬間、トアーラはふっと力を抜いてその場に屈み込んだ。
「!」
荷物を受け取った男のむこう脛を、回し蹴りの要領で思い切り蹴り上げる。
ぎゃっと悲鳴を上げて、一人がその場にひっくり返った。
「てめぇ!」
甘く見ていた子供の反抗に、ようやっと反応したあとの二人が勢い込んで身を乗り出す。
しかし身をかがめた瞬間足元の砂を鷲掴んでいたトアーラは、それを二人に向けてぶちまけた。
―――人間の弱点は“中心”にある。正面を狙え。眉間、鼻、顎、咽、鳩尾、それで相手が男なら・・・分かるだろう?
棍棒に頼りすぎてはいけないと、忠告をくれたのは最近になって組み手の相手をしてくれている護衛の男だ。
現に今、自分は愛用の武器である棍棒を持っていない。
目を押さえて呻く二人の急所を新たに思い切り蹴り上げて、そのまま後ろも見ずに駆け出す。
視界の隅にかろうじて映ったのは放り出された荷袋。
せっかく貯めた給金で買った品をもったいなくも思ったが、これがキャラバンでの使いでなくて良かったと頭の隅で考える。
「舐めてんじゃねぇぞ、ガキが!」
いち早く立ち直ったひとりが後を追ってきた。
人の賑わう往来では何事かと足を止める人もいたが、子供を追いかける町のゴロツキの存在に気付くと、厄介事御免、我関せずというように見てみぬフリをする。
ああ、ここはそういう町なのかと、トアーラは忙しく駆けながらどこか冷静に思った。
助けは得られないと見切りをつけ、往来を避けて路地に駆け込む。
いつまでも追われるつもりはない。闘うつもりだった。
フードの下で、片方の耳飾りが忙しなく揺れている。
―― そのとき、 自分とともに脇から路地に飛び込んできた影の姿にトアーラはぎょっとして身を引いた。
「こっちだ、トアーラ!」
つづく
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