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揺処

【caravan】【Falatoria Story】企画創作ネタ板

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2024/05/21 (Tue) -

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別れの前に

2009/05/14 (Thu) - caravan-小説

第5夜 移動中 ~ 「香雲の花」に着く前のお話

新生キャラバンで新規登録が始まる前に・・・!






 あと数日のうちに、最後の町に辿り着くだろう。


世話役がそう告げるのを聞いた。
夜営の準備が始まった隊商を背景に、明日進む先へ目を凝らす。
暮れ始めた砂の海。山のように波のように、連なる砂丘はどこまでも続く。
その先にはまだ、町の影を見つけることはできない。
ほんの少し、ほっとした。


「なんかすることある?」
「ガドゥ君」
 もう見習いでなくなったはずの少年は、けれど相変わらず見習いの仕事を見つけてはまめに手伝いに来てくれる。
今も、夕餉を終えて他の見習い達とその後片付けをしていると、ひょっこり顔を出して問うてきた。
そして皿運びを自分の仕事にしてしまう。
礼を言うと、どこか複雑そうな顔をして彼は苦笑した。
ついこの間まで下働きが当たり前のことだったのに、変な感じがするのだろう。
わたしだって変な感じだ。ガドゥ君は一歩先に進んでしまった、はずなのに。

日々はあまりに変わり無さ過ぎた。
彼が護衛になってからは時間に少しズレができたけれど
護衛のことも見習いのこともそれぞれ分かっていることなので、
口約束をすることなく互いに暇を見つけては組み手練習に付き合っていた。
相変わらずわたしたちはアルファルドさんを師として仰ぎ、
時に他の護衛たちに相手をしてもらいながら共に過ごし、
それがあともう少しで終わるなんて、まだ信じられない。 

それでも、わたしは決めたのだ。

「――ガドゥ君、今日は真剣勝負しない?」
 思い切って相手に訊いてみた。素手でなく、互いの得物を持って勝負をしようと。
「別にいいけど?」
 少し不思議そうな顔をして、けれど彼が断るはずも無い。
見習いの仕事を終えてからいつも通り、護衛たちの天幕の裏手に向かう。
そこは広く場所が取られ、見回りのための篝火もあって動きやすい。
暇ならアルフ先生も顔を出してくれるはず。
そう考えていたら、通りがかりに彼を見つけた。
良かった、そう思いながら審判を頼むと、得物を使うことに関しては反対もせず快諾してくれた。
ただし、時間制限付きという条件で。
その理由に思い至って、彼に頭を下げた。 


 その場に居合わせた小数の護衛たちに見守られながら、互いに息をつめて向かい合う。
ガドゥ君は長剣で、わたしは棍棒。刃を前にするとやっぱり心臓がきゅっと縮む気がする。 怖いのか?それもあるけれど、興奮もしている。
あれを受け流すことができるのか?
――大丈夫、できる。
心の中で頷く声がする。受け方も交わし方も、もう体が覚えてしまっている。
この自信は、この旅の中で得たもの。 

「――始め!」 

 篝火の爆ぜる音と共に、夜空に響く鋭い声。
相手の動きを探り、わたしたちは同時に踏み出した。 


 わたしはアルフ先生とガドゥ君の真剣勝負を見るのが好きだった。
軌跡を残して煌く白刃は、恐ろしくも美しい。
最初の内は遊ばれて、あっと思った内にのされていた少年は、
日々師匠に挑む内、互角とまでは行かずとも時間を延ばして粘って、決め技まで見せるようになった。
まだ師の剣を飛ばしたことは無い。
でも先生、その内笑っている場合じゃなくなるのではなかろうか?
だってそれを見るたび、わたしはもう敵う気がしないのだ。 


 汗が散った。
ぐっと身をかがめて刃を過ごし、つま先を蹴って勢いのまま棒の先を前に突き出す。
左に交わすのが分かって、そのまま斜めに薙ぎ払う。
足を掠め一瞬たたらを踏むのを見咎め、さらに一撃。
彼は剣を片手にさらに大きく飛び退いて、その場で深く身を沈めると地面を蹴って攻めに転じた。
ガドゥ君の真っ直ぐな動きには躊躇いがない。
躊躇いがない分交わしやすいが、ひとつひとつの攻撃に重みがある。
こちらも飛び退こうとして、すでに疲労で重くなっている足が砂に取られた。
剣を流し損ねる。とっさに受けた刃は先ほどよりずしりと重みを増している。
まともに受けても、わたしにはすでに押し返す力はない。
自分にとって長期戦が難しいものだと知ったのは、組み手練習を始めてからだった。
けれど短期戦に持ち込もうにも、ガドゥ君はわたしの動きがある程度読めてしまっているのだ。
時間制限はたぶん、今のわたしたちにとって、少しでも対等の勝負であるように。
棒術を使った戦闘バランスではまだ利があると思う。
しかし圧倒的な体力と持久力の差では到底敵わなくなってしまった。
身長だってこんなに差を付けられて、気付けば目を見張る思いだ。 

―――敵わない

 それはやっぱり悔しくて、でも、こうして変わらず相手にしてくれることが嬉しくて。 変わらないことが嬉しい。けれど、変わっていくことに思いを馳せている。 

もう少し。この一撃だけ。 

ぐっと力を振り絞って僅かに刃を押し返す。
けれど、そこまでだった。
篝火の明かりに煌く、相手の朝日色の目を見返して 


「はぁーいそこまでぇ~!」


 アルフ先生の間延びした終了の合図に、競り合う互いの力が思い切り抜けてしまった。
げはぁ!荒い声を上げてガドゥ君は仰向けに倒れ込んだ。
わたしもその場にへたり込んで、棒を支えに肩で息を繰り返す。
「お疲れお疲れ。二人ともいい勝負だったぞー」
 周囲の護衛たちから掛かる労いの声と共に、楽しげなアルフ先生の声が耳に届く。
「きっつ~~・・・!」
「う、うん・・・・・・」
 ――本当かな、まだ余裕なんじゃないのかな、そんな思いに駆られてちらりと顔を上げると、
少年は手で顔を仰ぎながら笑った。

「危なかった!だってトアーラ、俺の動き読んでんだもんなぁ・・・!」
 
 どきりとして、思わず顔が熱くなった。
ああ、そうかと思う。
日々の組み手練習で、もう互いの動きを知ってしまって。
わたしも彼と同じだろうか。まだ、この少年と渡り合えているだろうか。
それならばまだ、全く敵わないわけではないと、少しは思っても良いのだろうか。


「あの、ガドゥ君、アルフ先生」
「うん?」
 呼吸を整えてから、意を決して口を開いた。
「次の街でこの隊商が解散したら、わたし、故郷に帰ろうと思います」
 二人の目が丸くなる。
今後、二人が新たな隊商に加わるつもりでいることは聞いていた。
それに対して自分はどうしようかと考えた。とても別れ難く思っている自分を知っていたから。
けれど本当は、悩みながらも心の行方は決まっていたのだ。
 香雲の花という町は、わたしにとって初めての場所ではない。過去二度ほど訪れたことがある。 そこからならきっと、故郷の町に向けた隊商に加わることができるはずで、実際にそうして訪れた記憶のある町だった。
きっと道が分かる。だから一度帰ろう、そうしてわたしには、そこに残してきた成すべきことがある。今なら、向き合える気がする。そうして、そのことを伝えなければならない人がいる。
それが済んだら、もう一度旅に出よう――叶うなら、“ここ”に戻ってこれたら・・・
「・・・一度帰って・・・用事を済ませたら、また香雲の花に戻って来ようと思っています。 もし、次に二人が入る隊商が出発するのに間に合えば、その・・・・・・またご一緒させて頂きたくて・・・・・・」
 躊躇って小さく息をつく。けれど大きく息を吸い直してもう一度顔を上げる。 

「そうしたらまた、組み手の相手をしてもらえますか?」 

 彼らとの別れは、いつでもそこにある。
生死に関わらずとも、それは過酷な砂漠の大地に生きる人の世の常。
その別れの唐突さはもう、十分というほどに知っている。
けれどもし叶うなら、叶う限りのところまででいいから、もう少し一緒にいられたらと思ってしまう。
彼らはわたしにとって、探すのではなく憧れを持って追いかけたいと願う人たち。
一緒の隊商に入りたい理由としては、もしかしたら少し、おかしいのかもしれないけれど・・・ 

二人は顔を見合わせて、そしてわたしの躊躇いを容易く吹き飛ばした。


「当たり前だろ!」



 声をそろえて笑う彼らは、わたしの師と兄弟子。
長い旅の途中、果ての見えない砂の大地で出会い
決して短くは無い時を共に過ごして
やがて時を経ても、わたしの心にその存在を煌かせる人々の

大切な、そのひとりとなる。


 

end.

------------------------------------------------------------------

ガドゥ君とアルフ先生お借りしました!

ずっと、お二人と別れる前のお話を書きたくて・・・!
この二日くらいあとに香雲の花に辿り付いて、解散。すぐにトアーラが故郷に向けた隊商に加わったかは、別のお話。遅くなりましたが、こんな感じでひとまずお別れしました。

キャラバンでお知り合いになって、一番交流させて頂いた(つもり・・・!)なのがお二方なので、もうこれはトアーラの心に深く根付いている感じです。もっとたくさん交流できればよかったのにと思いますが、それは新生キャラバンに再登録したときの楽しみに。
新キャラバン出発前に戻るつもりでいたけれど、結局間に合いません・・・。
もしかしたら+@を連れて追いかけるかも!

彼女はこの旅でちょっと成長した感じ。そして再会後はもう少し社交的を目指して!
 

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