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【caravan】【Falatoria Story】企画創作ネタ板

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白輝都譚 その3

2008/11/02 (Sun) - caravan-小説

第4夜 『白輝の都』 塩の町にて その3

・・・思ったより長くなってしまいました・・・!

追記:4項に分割しましたー

*** 3 ***
 

――――― ドガッ!

 

 身を強張らせた二人の前で、ゴロツキの男は白目を剥いて昏倒する。

「・・・!?」

 その背後、襲い掛かってきた男を足蹴にして仁王立ちする長身の黒い姿に、二人は呆然としたまま目を見開いた。ぽかんと開いた口が塞がらないのは、彼のすらりと長い足が、襲い掛かってきた男の後頭部に鮮やかにヒットする様を目にしたからだ。

「こーら、お前ら」

 その声に、ようやっと我に返った少年は顔を輝かせた。

「師匠・・・!」

 にやり、笑ってこちらを見下ろすのは、トアーラが放棄したはずの荷袋を抱えた彼らの師匠である青年。

「アルファルド・・・・・・先生・・・・・・」
「二人でなーにしてるんだ?」

 ざっと周囲を見回して状況はすでに把握しているはずなのに、彼らの師匠は笑顔で問う。
地面に座り込んだままの二人は、ようやく彼が笑顔で怒りのオーラを発していることに気付いて青くなった。

 

*** *** ***

 

「お前ら、運が悪かったなぁ」

 この台詞は被害にあった子供達に向けてではなく、アルファルドと相対したゴロツキに向けられた言葉だった。
どうにか気を取り直したゴロツキ共を、アルファルドが確実に戦闘再起不能にして追い返したのはその直後のことだ。その圧倒的な強さと手際の良さに、見習いの二人は言葉もなく唖然とするしかない。実力の差を痛いほど思い知る。

路地裏に三人で腰を下ろし、アルファルドはトアーラの手の様子を見て思い切り顔を顰めた。

「ゆっくり開いて・・・・・握って・・・・・・」
「・・・・・・っ」
「ん。骨折はしてないが、見事にぱっくり裂けてるな・・・・・・天幕戻ったら医者んとこ行くぞ」
「・・・は・・・はい・・・・・・」

 もう使えないと判断されたトアーラのフードを手際よく裂き、丁寧に巻きつける。眉を顰めたままの相手にトアーラは縮こまった。

「うっわ痛そ・・・お前、無茶するなぁ!」

 その二人の手元を覗き込んで呻いたガドゥの頭を、アルファルドは遠慮なくはたいた。

「お前が言うんじゃない、お前が!」
「痛って・・・!!」
「あ、あの、すみません・・・・・・でも、ガドゥ君は、わたしを助けに来てくれたんです・・・だから・・・・・・」
「気にすんなよトアーラ!だって師匠!あいつらが悪いんだぜ!?」
「・・・・・・二人ともな、驕るのも大概にしろよ」

 その珍しく怒りを含んだ静かな声音に、トアーラとガドゥはうっと言葉を詰まらせた。

「ちっとばかし俺から組み手を齧ったからって、お前ら自分の力量を過信してないか?喧嘩だからって舐めんなよ。 ヘタすりゃその短刀が、お前らの首を掻っ切ってたかもしれないんだぞ」
「・・・・・・う・・・・・・」
「・・・・・・はい・・・・・・」
「この町は危険だって予め知ってたはずだよな?どうしてこうなる前に二人ともすぐ隊に戻らない。だいたい、お前らここに追い込まれたわけじゃないだろ。他に逃げ道があったはずなのに 往来から外れてこんな路地に逃げ込んだって、地理に詳しい相手の方が上手だと分かるもんだろうが」

 懇々と続く説教に最初の内こそしゅんとしていたガドゥが、そのとき突然がばりと顔を上げた。

「そ、そうだよ師匠!あんたどうして、こんな分かりにくいとこにあんなタイミング良く助けに来れたんだ?!」

 アルファルドの説教を遮るように慌てて声を上げる。
それはトアーラも不思議に思っていたことだった。アルファルドの脇に置かれた荷袋は、中身を確認したところ確かに彼女が町の市で購入したものだった。
それがここにあるということは、彼はトアーラがゴロツキに絡まれた場所にまで足を運んだということなのか。
しかしあそこからこの路地裏の一画まで、二人とも走った道程を覚えているわけではない。

「――あ? ああ・・・・・・呼ばれたんだよ」
「呼ばれたって・・・・・・誰に?」
「分からん」

 目を丸くする子供達の前で青年は肩を竦めた。そして何かを思い出すように頭上を見上げる。

「たぶん・・・・・・水のルフだったと思うんだが」
「!」

 咄嗟にトアーラの頭に浮かんだのは、ゴロツキの男と短刀の奪い合いをしていた時の事だ。
突然目の前に現れた小さな水壁。ゴロツキの目を射抜いた水弾―――あれはルフだったのか?

「お前ら、ルフなんて持ってたか?」

 問われた両者は首を左右に振る。それを見た青年は眉を寄せてさらに首を捻り、そしてトアーラに注目した。

「トアーラ・・・お前、ほんとうにルフ持ってないか?」
「・・・え・・・?」

 目を丸くする彼女に、突然目の前に小さな水鏡が現れたのだと彼は言った。
その水鏡に一瞬、ガドゥの姿が映った。そして、明らかに人相の悪い男共が追い駆けて来る様子。
明らかな異常に気付きそのまま放って置くわけにもいかず、急ごうとするが生憎場所が分からない。
その時、現れたのと同様、突然水鏡が形を失い飛び散った。
そしてアルファルドの目に飛び込んだ水滴―― その“水の記憶” が、弟子達が適当に駆け巡った路地の道順をそのまま辿り、彼をこの場に導いたのだという。
トアーラの放棄した荷をアルファルドが回収できたのもそのおかげだった。―――しかし。
奇妙なことに、その水の記憶の一部始終には、トアーラの姿がどこにも映っていなかったのだ。

「――だからここに来て、お前が居るのを見て驚いたんだよ。でもよくよく考えてみれば、水の記憶は全部お前視点の光景だったんだよな」
「・・・・・・水の、記憶・・・・・・私に、ルフ・・・?」

 とにかく間に合って良かったと溜息をつく彼を、トアーラ呆然と見返すことしかできない。頭の中が混乱していた。これまでルフを目にした覚えはない。覚えはないが・・・・・・まさか・・・・・・

「あれは、なんかの命令に従って動いてたな・・・主人の危機に発現するようになってたんじゃないか?」
「なぁ、ルフってそんなことできんの?」

 付け加えたアルファルドに、ガドゥは率直な疑問をぶつける。 それにも頷き返し、

「ああ。 召喚士以外が持つルフは効果固定の魔法アイテムだろう。複数の命令にしたらできるんじゃないか?
“主人の危機に助けを呼ぶ”、“助けを主人の下に導く” とかな」

 覚えがなくても、一度召喚士の元に行ってみろと言うアルファルドにトアーラは小さく頷いた。
隊商に入ってから間近でルフを見た覚えも、 召喚した覚えもない。けれど、ルフを宿しているかもしれない物なら・・・・・・自然と、片手が右耳に添えられる。

 

耳飾りの青い石から、小さな水滴の音が響いた気がした。

 





つづく 

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